
先日、マツダのスポーツカー、ロードスターで競うワンメイクレースに参加した。出場する気になったのは、年に一度ある「メディア対抗ロードスター4時間レース」という耐久レースに参戦するため、ウォーミング・アップを兼ねての参加というわけ。出場したレースは“袖ヶ浦フォレストレースウェイ”で行われた、“ロードスター・パーティレースⅡ”だ。
そのメディア対抗ロードスター4時間レースは、私が出演するラジオ番組「ザ・モーターウィークリー」の出演メンバーでチームを組んで出場するレース。これも楽しいが最近はほとんど練習時間なしのぶっつけ本番。でも、さすがに、突然サーキットをロードスターで走るのは“70歳のじじい”には辛い。
日常の足にも使えるNR-A仕様
今回のレースに使用したロードスターは、レースにも参加可能な仕様になっている“NR-A”と呼ぶ市販モデル。ラジオもない“素”の状態に、車高調のビルシュタイン・ダンパーやトルセンLSD、レザーステアリングホイール、アルミペダル、フロントサスタワーバー、16インチスチールホイールなどを装備しているモデルだ。
更にオプションで、アルミホイールや、ロールバーセット、ロールバープロテクター、牽引フック等が付いていて、良いでき栄え。普段の“足”としても使え、サーキットも走れる便利なマシンだ。もちろん2L、170ps(125kw)エンジンはノーマルのまま、レギュレーションで改造はできない。
クルマを受け取りにガレージへ。ありました!3代目ロードスター、NC型が。ドアを開けると真紅のレカロシート!かっこイイ!ロールバーが入り、シートがレーシングタイプに交換されているだけで、後はノーマル。もっともNR-Aはぺダルがアルミに交換されていてレーシーな雰囲気。既にゼッケンも張られている。
幌を空けて暑い夏のさなかに移動か・・・と、ちょっと暗い気持ちになったのだが・・・うあ~、エアコンはチャンと装備されている!バンザ~イと思わず叫びたくなる。これは有難い、サーキットまでの約2時間あまり、35度を超す夏には嬉しい。
早速エアコン全開。涼しいコクピットでサーキットに向かう。実に快適。こんなに楽して移動できるのも、この“ロードスター、パーティレースⅡ”の特徴だ。ナンバー付きマシンで普段は自分の足に、そして休日はレーシングマシンに変身。一粒で2度美味しいのだ。
久しぶりのMTだ。実は私の足クルマはAT。でも、ロードスターに乗るとMTがとても楽しい。身体がマシンと一体化する感じがあり、久しぶりにMTの楽しさを思い出した。もうひとつ良かったのが、ロードスターの乗りやすさ。ノーマルエンジンなので、低速からでもトルクがあり、無理なく市街地も走れる。またガツンガツンではないサスなので、乗り心地も全く辛くない。こうして快適に一路、袖ヶ浦フォレストレースウェイに向かった。
高速道路でロードスターの良さを感じるのは、加速の良さ。1110kgと軽量なボディに170psエンジンだ。パワーウェイトレシオは6.5kg/psと軽量!これがスポーツカーの良さだ。アクセルひと踏みでスッと加速してくれ、レーンチェンジして車列に無理なく滑り込め、相手に迷惑を掛けることもない。しかも安全性が高い。またブレーキもレーシングパッドが与えられているので、効きが抜群によく安心感が高い。
ひとつだけ困ったことがあった。高速道路でETCがないこと。今やETCがないととても不便。支払いがしにくいだけでなく、実はかなり財布に響く。東京からアクアライン経由で千葉の袖ヶ浦まで移動するが、ETCがあるとたったの800円。それがETCなしだと何と片道3000円するので、サーキットでスピンしたみたいに凹んでしまった。
サーキットに到着。エントリー受付を済ませ、後はレースの用意。といっても空気圧はすでに標準に合わせてあり、ガソリンも程よく入っている。ゼッケンもOK。後は前後バンパーにけん引フックをねじ込むくらいだ。肝心のラップタイム計測用のトランスポンダーを借りて、ガムテープでしっかりと後部に張り付ける。
おっともうひとつ!幌を開けてオープンカーにすれば完成。最後に、トランク内にある三角表示板とパンク修理キットをピットに降ろせばコースインを待つばかりとなる。
その時、改めてロードスターの幌の素晴らしさを再体験した。ルーフのフロントウインドにあるラッチをカチッと外し、エイヤ!とばかり後ろに押すだけ。上手くいけばそのワンアクションでカチッと後部に収納されるし、収納がしっかりできない時にはクルマから降り、上から抑えるだけでOKだ。トップを張る時はその逆。ワン、ツ―、スリーアクションで簡単に張れる優れものだ。
家族ぐるみでレースが楽しめるのがパーティレース
サーキットドライビングだけなら、これでもう十分。ただし、今回はレースなので、車検がある。ライセンスチェックとヘルメットなどの装具検査、そして車検小屋のピットに入れて下回りやヘッドライト、ブレーキ、ウインカーのチェック。車検では手押しなので、やはり一人だと辛い。70歳にはキビシイので、奥さんかヘルパーがほしいなぁ。
今回の“ロードスター、パーティレースⅡ”の参加者は3クラス合わせて約30台弱となかなか盛況だ。このレースはパーティとネーミングがあるように、ギンギンに闘志を燃やして厳しく走る、と、いうのではなく、ヨーロッパやアメリカのクラブレースのように、家族ぐるみで楽しみにサーキットに来て、仲間たちとワイワイとパーティのように楽しみながらレースで遊ぼうという趣旨のレース。
それだけにピットでは皆和やかだ。私がほとんど初めて参加したにも関わらず、すぐに5人、6人のドライバーの人達と知り合いになった。彼らが寄ってきてフレンドリーに声を掛けてくれたのだ。ギスギスせず、とてもいい雰囲気だ。それに、レースのランニングコストをできるだけ安く、というのがこのレースのよいところ。確かに安くあげられる。移動もトランスポーターなしの自走だから。
年間5~7レースぐらいあるシリーズは、10年近くの歴史があり、経験豊富な“スペシャリスト”もたくさんいる。こういう“スペシャリスト”には実はかなわない。ほとんどノーマルに近い、サスペンションとスポーツタイヤ(2012年からBS、ポテンザRE11となる)ではロールは大きいし、コーナリングの最大パフォーマンスを出す、スイートスポットが狭い。その狭いスイートスポットを巧みに会得して使いきれるのが、そのスペシャリスト達だ。
何故、私が今回パーティレースに参加したか・・・。決して驚くほど速いマシンではない。がしかし、先の理由でこのマシンの最大のパフォーマンスを引き出して走るのは、決してやさしくはないのだ。丁寧に、常に4本のタイヤを路面に最大限に接地させ、無駄のないラインで前へ前へと進めねばならない。その微妙な感覚は常にサーキットに身を置き続けないと身体から抜け出てしまう。抜け出た分を常に補わないと、まるで水が蒸発するように消えてしまうからだ。
また、俗にいう“動体視力”もそのひとつ。私は“スピード感”と呼びたいが、これが退化する。野球の選手がいう、ピッチャーが投げた“ボールの縫い目が見える”という、その動体視力、スピード感だ。
私が現役で絶好調の頃は、鈴鹿のS字が非常にゆっくりと見えた。だから攻めていても常にゆとりがある。まるで、ゆっくりと自転車を漕いで登るように、鈴鹿のS字が見えるのだ。F-1のトップドライバー達は攻めているコーナーでも、実はのんびりとドライブしているように見えている筈だ。
この“動体視力”はサーキットでしか補えない。時速800kmの旅客機に乗っても駄目だ。80km/hでも良いからサーキットで体験し、蓄積し、育てるしかないのだ。だから、サーキットならどこでも、どんなマシンでもいい。常に走って退化を止めなければいけないのだ。
レースは12ラップ。私はクラス11台中、11位!・・・これ以上書きたくはない。(笑)
↑予選はイマイチだけど、決勝はがんばりますよ~。となりは常勝そしてポールポジションの加藤さんと記念に(^-^)
こうして3クラス27台で、レースが行われた。 F-1のように5個の赤ランプが消えてからスタート。コクピットの中で対峙するこのスタートまでの緊張感がまたたまらない。
スタートはまずまず、だが、順位はそのまま。この袖ヶ浦のコースは2.4km程度と短いが、コース幅は比較的広く、トリッキーなコース。もっとも効率の良いラインを見出すのには慣れないとまるでパズルのように知的な計算を要求される。じっくりと追いかけようとエンジンを7,000rpmまでひっぱるがやはり、伸びなくなってきた。
朝の予選で排気の触媒が壊れたらしく、ふんづまり状態で排気がうまく抜けない。それでパワーダウンし、予選もタイムが出なかった。2ラップほど頑張るが、スピードが80km/hぐらいまでしか出なくなってきた。ちょうど触媒の寿命の時期だったらしく残念ながらリタイアとなる。
↑オレンジボールでリタイヤとなってしまった。マフラー出口が白っぽくなってきた、トラブルになる兆候というだとか・・・
だが、袖ヶ浦フォレストレースウェイは何とか攻略のめどが付いた。また5速MTのロードスターの楽しさを満喫できたことも大きな収穫だった。ロードスターを最大限に楽しむにはサーキットに限る。ストレートのスピードも最大限引き出せ、ブレーキングのテクニックも要求される。更にコーナリングではタイヤの上手な使い方。フロントとリヤタイヤのグリップコントロールも必要だ。そしてラインを読む知的な推察力。頭と身体とマシンをフルに使い果たした時の、心地よい満足感。充実した楽しい一日だった。