
毎月、第一・第二月曜日は「YES! for you」。
「Zero Carbon Yokohama」をゴールに、
SDGs未来都市 横浜から その今を、発信していきます。
今週は、
農研機構農業環境変動研究センター 所長 渡邊朋也さんが登場!!私の所属する農研機構では、イネ、ムギ、ダイズ、果樹、野菜などの品種開発から、
作物の栽培技術、農業機械のロボット化、農産物の食品加工など幅広分野を研究対象しています。
温暖化の農業への影響や対策の研究も農研機構が取り組む重要な課題のひとつです。
私はその温暖化研究の課題責任者を担当しています。
温暖化の進行によって、日本の農業や食料生産が今後どうなるかについては、
多くの皆さんが 気にされていると思います。
内閣府が2016年に行った地球温暖化に関する世論調査でも、
農業への 影響は自然災害の増加につづいて、2番目に関心の高い項目でした。
そこで、私たち農研機構で出版した本が「地球温暖化と日本の農業」です。
この本では、温暖化が農業にどんな影響を与えているか、これからどうなるか、
またどんな対策技術が あるのか、について、
農研機構で温暖化対策に取り組む研究者24人がわかりやすく紹介しています。
農業場面に限らないのですが、温暖化対策の取り組みは大きくは3つに分けられます。
ひとつは、これから将来起こりうる温暖化が農作物や農業生産に与える影響を予測し、
可能な対応策を検討することで、これを温暖化影響評価といっています。
二つめは、現在すでにいろいろな作物で温暖化の影響が現れていますので、
その対策技術を開発する、これを温暖化への適応といいます。
三つめですが、温暖化の原因となる温室効果ガスは農業活動や農地からも出ていますので、
農業分野においても温室効果ガスの排出を減らす取り組みが必要です。
温暖化の進行を遅らせるための研究で、温暖化の緩和といいます。
これらの研究は別々に行われるのではなくて、将来影響に基づいて対応策を開発する、
温室効果ガス発生を抑えながら生産量を向上させるなど、それぞれが密接に関連して進められます。
温暖化による将来影響を予測するには、まず気温などの気候の将来変化を予測する必要があります。
日本の国土は南北に広がっており、また地形も複雑ですので、気候の変化も場所によって大きく違います。
そこで、農研機構では全国を約1km四方の区画に分けて地域ごとの将来の
気候予測をきめ細かく行えるようにしました。
また、将来の気温上昇や二酸化炭素濃度の変化を再現した実験環境で作物を栽培して
どんな反応をするかも調べています。
これらの実験やコンピュータシミュレーションによって、たとえばイネでは、
今後温室効果ガスと気温の上昇が続いた場合、
ある程度まで収量、収量というのは単位面積あたりの収穫量のことですが、これが増えるのですが、
お米の粒が白く濁るという品質低下がひどくなることがわかってきました。
また、温度上昇の程度によっては、収量の低下がおこることや、
イネの穂が出る時期に気温がとても高くなると、稲の花がうまく受粉できなくなって、
お米が実らなくなる、これを不稔といいますが、そういった被害も起こってきます。
果樹では、リンゴ、ウンシュウミカン、ブドウなどで将来の栽培適地がどのように変化するかが調べられています。
ウンシュウミカンでは南関東より南が主産地ですが、
将来は本州の日本海側や南東北の沿岸部まで適地が広がると予想されています。
また品質に関しては、気温の上昇によってリンゴでは甘みは増えるけど酸味が減ることや、
巨峰のような黒い色のブドウでは、色づきが悪くなることがわかってきました。
果樹は、栽培を始めてから20年30年と長期間にわたって収穫をしますので、
将来どのような品種や果樹の種類が適しているのかという予測は、これから新しい果樹の栽培をはじめる場合や、
新しい品種に植え替える場合にはとても重要な情報になりますので、将来の予測でもあり、
温暖化への適応でもあります。
農研機構
http://www.naro.affrc.go.jp
「地球温暖化と日本の農業-気温上昇によって私たちの食べ物が変わる!?」
農研機構編 成山堂書店 ISBN978-4-425-55451-5 2,200円(税別)
農研機構技報 No.4(特集:気候変動)
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/naro_technical_report/134176.html
広報誌NARO No.16(特集1「食卓に迫る 地球温暖化の影響と適応策」)
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/quarterly-newsletter/135484.html